５つ星のラーメン屋
２００１年の夏からラーメン屋めぐりをしている。旨いラーメン屋を探すというのが当初の目的だった。旨いか不味いかというのがわかるようになるためにも沢山のラーメン屋を経験しなければならん、などと思い、毎週日曜日にあちこち出かけていってラーメンを食べてみている。たしかに当たりハズレはあるが、極度なハズレというのもあまりない。それを考えると、このシリーズの一番最初に出てきた蕎麦屋の不味さというのは実に貴重だった。あんな不味いものは食ったことがない。どうすればあれだけ不味いものが作れるのだろうか？
さてさて、そのラーメン屋めぐりであるが、あちこちで旨いラーメン屋がないか？というような話しをよくする。すると、色々と教えてくれる人も多い。ある友人が教えてくれたのは、とにかく、今までに食ったことがないくらい旨いラーメンだという。しかしながら、その店、客の残したスープを再利用しているとかで何度か営業停止になっているらしい。確かにそれは誰も真似できんわな！そんで、誰も食ったことない味が出るわけね．．．さすがに、これはいくら旨くても怖くてたべにいけないのでパス！
さてさて、それとは全く別に、とにかく５つ星のラーメン屋があるというので、いってみた。スープ再利用の店には負けるらしいが（ホントか？）、とにかくビックリするほど旨いんだという噂であったので期待に胸を膨らませながら遠路はるばる行ってみた。そして、看板を見つけた時、その５つ星というイメージとのギャップに驚いた。まず、建物がまるっきりほったて小屋なのである。まるで屋台のラーメン屋に屋根がついたようなものだった。入ってみると、これが、３畳くらいの狭い土間の真ん中に７〜８人が座れる古めかしいテーブルがあり、このテーブルを囲むように客が座る。テーブルの真ん中にはステンレス製のボウルが置いてあり、これに刻んだネギとモヤシとゆで卵が入れてあって、無造作に置いてある。客席（席といえるのかどうか？）の頭上の棚に置かれた古めかしいテレビは体を捻じって見上げなければ見えない。とりあえず、ラーメンを注文する。すでにラーメンを食べている客がいたので、どんなのかな？と思って気にしながら（見ながら）待つこと３分くらいだったかな、目の前にラーメンが運ばれてきたのだが、みると具らしきものは何もない。汁に麺が入っていて、ネギがのっている。ただそれだけだ。これだったら第一回で紹介した蕎麦屋の蕎麦と同じだな。ただ、ここは店員はラーメン作ってるオヤジと注文とったり運んだりするオッサン二人がテキパキと働いていたが。内心「マジで？これが５つ星のラーメン？」と思いながら、テーブル上のもやしとネギを少し加え、一口食べる。「なんじゃこりゃ〜！旨いじゃん！」これは驚いた。普通、汁に麺が入ってるだけのラーメンって食えたもんじゃないよね。しかも、それだけで６００円もするというのは一体なんなんだ？食べ終わって道を歩きながら「これはすげ〜発見だ」と一人ブツブツ言う私であった。（なんか物足りないような気もしたが、それは私の考え違いであることにしばらくしてから気づくことになる（後述））
それにしても、この店、なんとなくラーメン「道」というようなものを感じた。ボロボロのほったて小屋で食べる、麺と汁だけの一杯６００円のラーメンが信じられないくらい旨いなんて、いったいどういうことだ？
ラーメンは庶民の食べ物である。屋台をひいてラーメンを食わせるオッサンがいて（尾道の朱華園も元々は屋台のラーメンだったらしい）、庶民がそこに寄って食べる。そこに日本のラーメンの原風景があるのではないか。それでも、あの屋台は旨いとか、いや、こっちの方が、などと言っていたのだろう。そこには黒豚のチャーシューなんてないし、カニなどといった高級食材が入っているわけもなく、ただ汁と麺だけのラーメンというのが普通だったのだろう。それでも旨いものは旨いと思えた筈だ。それがいつのまにか黒豚の厚いチャーシューが入っていないと満足できないとか、やれ、○○産の厳選した何々で出汁をとってどうのこうのでと難しげになってきた。客も客で、どこどこ産のナントカで出汁をとったナントカであーたらこーたらと薀蓄をたれるようになっている。かくいう私もそういう傾向はある。まあ、それはそれで一種の文化の進歩であるから、それはよい。しかし、この店に行ってみて、ラーメン「道」の原点はこれだ、という気がした。何十年も前からラーメンにこだわってきたポリシーが、小さなほったて小屋で、汁と麺だけでかもし出す、あの味にあらわれている。なんということだ。なんだかすごく感動したと同時に自分のラーメンに対する考えがかなり変わってしまった。そのくらいインパクトがあったのだ。
私はいっぺんにあの店のファンになってしまった。やはり「５つ星」は本物だった。（この店がどこのどういう店か知りたい人はメールください）