雨の日の雨宿りで考えたこと
昨夜の仕事が長引いて、深夜２時半ころにようやく終わった。クタクタになりながら土砂降りの中を帰ってきた。帰宅したのは午前４時。何をするでもなく、すぐに寝た。起きたのは１０時過ぎだったろうか？いつもなら休日の短い時間を惜しむように、朝起きてから、あれやこれやと動いてしまうのだが、さすがに今日はくたびれた。何気なくテレビをつけたらお笑い番組をやっていて、ぼーっとしながら見ていた。最近は目的もなくテレビを見るということもあまりなかったのだが、これが結構楽しい。１１時過ぎにピアノのレッスンから長女が帰ってきた。そして、一緒にテレビを見て笑う。こんなにテレビを見て笑ったのは何年ぶりだろう？次女と妻は新体操のレッスンに出掛けて、長女と一緒に昼食だ。といっても、カップラーメンを二人で食べる。ただ、それだけだが、たまにはこういう時間があってもいいかな、そう思った。
昨夜からの雨は、朝になって少し弱くなったが、時々パラパラと降っており、散歩に出掛けるほどでもない。それでも夕方になって雨が少しやんできたらいってみようか？アカガエルのオタマたちのことも気になるが、なによりも、仕事が忙しい時ほど、散歩道に出かけて心の安らぎを求めたいと思うからだ。
そうして夕方家を出た。雨はやんでいたが、空がどんよりと曇っている。ゆっくりと散歩道へと向かう。すっかり田植えの終わった田んぼは、水が澄んでいて、綺麗だ。田んぼを見ていたら、雨が落ちてきた。
アマガエルが一斉に鳴き始める。雨が肌にあたるのが、なんとなく気持ちいい。とにかくアカガエルの沼にいかねば。アカガエルの沼は日に日に葦が伸びて、いまや背丈ほどにもなった。それをかきわけながら進む。
オタマジャクシたちはひっそりと、葦の根元にいた。随分と数も減った。自然の中で生きていくのは大変なことだ。私はそこで一生懸命に生きている彼らに手を貸すことは決してしない。それが自然の営みだからだ。ただ、彼らの一生懸命な姿をしっかりと見てやろう、そう思う。
思わず、「がんばれ！」といいたくなる。ただ、うまく育つことが出来ずに命を落としていった者たちの、その気持ちもしっかりと感じてやりたい。無事カエルになることが出来たものだけが自然なのではない。そうしてうまく育たなかった者たちも、大事な自然の営みの一部なのだから。
アカガエルの沼を後にしようと、歩き始めたところで、雨が強くなった。木陰に立って雨宿りをする。空を見上げながら、やむのを待っている。雨は谷津田の静かな空気の中、短い線を沢山描いて落ちてくる。パラパラと木々の葉の上ではじける。
雨を見つめながら色々と考える。私は、こんな中、毎週毎週、なんのために散歩をしているのだろう？ここにある自然の姿をしっかりと記録し、この場所やこの場所で生きるものが無意味に破壊されることを防ぐこと、それは一つの目的だ。しかし、それが全てではない。
私が散歩すること、それは、考えてみれば「よく生きる」ためだと思う。「よく生きたい」だから散歩する。散歩して、色とりどりの季節の移り変わりや、美しい鳥の声や、自然の香りや、いろんなものを感じることが出来る。他のことでは感じることが出来ない、しかし、ずっと静かにそこにあるもの、それを体で感じて「生きる」ことだ。
自然の中では、様々な生き物が「生きて」いる。それはただ単にそこに「棲んで」いるのではなく、「生きて」いるのだ。私はそういう意味では、普通の人間として、普段は別な場所で「生かされて」いる。だが、時々、こうして自然の中に入って生きていることを感じること、そこに「生きて」いる生き物たちの仲間入りを少しだけさせてもらい、いろんなものを感じ、いろんなことを考える。それが「生きる」ことだと思う。
ある日、木々の枝の間から真っ赤な夕陽が漏れてくるのを見た時、カエルたちの次第に盛り上がる合唱の音に囲まれて歩いた時、そして、今日、田んぼに落ちる雨粒が、沢山の輪を描いていくのをみたとき、そういう一つ一つの瞬間に「生きている」ことを感じる。人間が作ったものが決して与えることのない感動や、言葉に言い表せない感覚。今、この時、地球がまわっていて、その中にこんなに生き物が沢山いて、その中の一つに私がいて、ここで呼吸をしている、音を聴いている、においを感じている．．．
たまたまこの近くに住んだ私だが、こうして、散歩しながら、ここで少し「生きて」そのことで、根を少しずつ広げていく。それは、子供たちや、そのまた子供たちや、さらに未来へと「生きる」ことを伝えたいからだ。私は、この根が、一時の流行や、人々のワガママや、ご都合主義といった、長い長い自然の営みのなかで、まったく意味のない人間の一時の考え、そういうものによって、そう簡単に切られないようによく「生きて」いこうと思う。大事なことは、時代が変わっても、そう簡単に変化しないと信じているから。
さて、雨が少し小降りになった。いまのうちに家に帰ろう。家では娘達の賑やかな声が待っていることだろう。